親が介護施設や老人ホームへ入居すると、これまで親が住んでいた実家が突然「空き家」になります。「とりあえずそのままにしておこう」と思いながらも、維持費の問題や家族の意見の違いで判断が止まってしまう方は少なくありません。
この記事では、親が施設に入った後の実家の選択肢と、後悔しない進め方を具体的に解説します。
この記事の結論
まず「親が自宅へ戻る現実的な可能性があるか」「管理できる人がいるか」「将来の利用予定があるか」の3点を確認しましょう。戻る予定がなく管理も難しい場合は、早めに売却を検討するのが経済的・精神的な負担を減らす近道です。
なぜ親の施設入居後に実家問題が発生するのか
親が施設へ入居すると、実家をどうするかという問題に直面する家庭は少なくありません。空き家になっても維持費や管理の負担は続き、家族それぞれの考え方も異なるため、判断に迷いやすくなります。まずは、施設入居後に実家問題が起こりやすい理由を確認していきましょう。
空き家になる
親が施設へ入居した瞬間から、実家は「誰も住まない家」になります。しかし所有している限り、固定資産税・保険料・管理費などの費用は発生し続けます。「住んでいないから費用がかからない」というのは大きな誤解です。
維持費が発生し続ける
空き家になっても年間20〜40万円以上の維持コストがかかるケースが多くあります。固定資産税(数万〜数十万円)に加え、火災保険料・定期清掃・草刈り・突発的な修繕費が重なります。施設の入居費と並行して維持費も発生するため、家計への二重の負担になります。
家族間で意見が分かれやすい
「親がいつか戻るかもしれないから残しておきたい」という思いと、「維持費がもったいないから早く売りたい」という現実論がぶつかりやすいのが施設入居後の実家問題の特徴です。感情と経済性の両方が絡むため、話し合いが難航するケースが多くあります。
将来の利用予定が決まっていない
「いつか誰かが住むかもしれない」という漠然とした可能性を根拠に判断を先送りにしていると、気づけば数年が経過して維持費だけがかさんでいた——というケースは珍しくありません。「具体的に誰が・いつ・どんな理由で使うか」を明確にすることが判断の第一歩です。
何もしないで放置するとどうなるのか
「まだ急がなくても大丈夫」と実家を放置していると、時間の経過とともに負担やリスクは大きくなっていきます。維持費がかかり続けるだけでなく、建物の老朽化や防犯面の問題、売却条件の悪化につながる可能性もあります。判断を先送りする前に、放置による影響を確認しておきましょう。
固定資産税や維持費がかかり続ける
誰も住まなくても固定資産税は毎年課税されます。さらに「特定空家」や「管理不全空き家」に行政から指定されると、住宅用地の固定資産税軽減措置が解除されて税額が最大6倍になるリスクがあります。
建物の老朽化が進む
人が住まない家は換気・排水・清掃がなくなるため、通常より早く劣化します。カビ・腐食・害虫・雨漏りが進行し、修繕費が膨らむ悪循環に陥ります。放置年数が長いほど売却価格も下がります。
防犯上のリスクが高まる
空き家は不法侵入・放火・ゴミの不法投棄のターゲットになりやすく、近隣トラブルの原因にもなります。管理できていないことが周囲から見て明らかになると、クレームが届くケースもあります。
将来の売却価格が下がる可能性がある
建物の劣化が進むほど買い手は減り、値下げ交渉をされる可能性が高まります。また後述する「3,000万円特別控除」には「住まなくなってから3年以内」という期限があるため、のんびり構えていると税制上の優遇を逃すリスクもあります。
親が施設に入った後の実家の選択肢
親が施設へ入居した後の実家には、「これが正解」という選択肢はありません。親が自宅へ戻る可能性や家族の状況、維持費の負担、将来の活用予定などによって、最適な選択は変わります。それぞれのメリット・デメリットを比較し、自分たちの状況に合った方法を検討しましょう。
そのまま管理を続ける
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親が施設に合わなかった場合や体調が回復した場合に、戻れる場所を確保できる
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すぐに大きな決断をしなくてよい
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家族の集まる拠点として活用できる
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年間20〜40万円以上の維持費がかかり続ける
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管理を担う人(近居の家族など)に負担が集中しがち
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放置期間が長くなるほど建物が劣化し、売却価格が下がる
向いているケース
・親が施設に入ったばかりで、戻る可能性がまだある時期
・近隣に住む家族が無理なく定期管理できる
・1〜2年以内に方針を決める予定がある
売却する
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維持費・固定資産税から完全に解放される
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まとまった現金を施設費用・介護費用に充てられる
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相続人が複数いる場合、現金化することで公平に分けやすくなる
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管理の心理的負担がなくなる
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親が戻りたくなっても戻れる場所がなくなる
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仲介手数料(売却価格×3%+6万円・税別)など諸費用が発生する
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家族全員の合意が必要
向いているケース
・親が自宅へ戻る可能性が現実的に低い
・遠方在住で管理が難しい
・施設費用の確保が急務
賃貸として活用する
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毎月の家賃収入を施設費用や維持費に充てられる
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実家を手放さずに済む
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賃貸前にリフォームが必要な場合がある(費用:数十万〜数百万円)
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入居者がいる間は売却が難しくなる(売却時の3,000万円特別控除が使えなくなる)
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空室リスクや入居者トラブルへの対応が必要
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管理会社への委託費(家賃の5〜10%程度)が発生する
向いているケース
・交通利便性が良いエリアにある
・建物の状態が比較的良好
・将来的に子ども世代が住む予定があり、その間だけ貸す場合(定期借家契約を活用)
将来的な活用に向けて保有する
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子どもや孫が将来住む選択肢を残せる
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売却タイミングを自分たちで選べる
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長期にわたって維持費が発生する
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「いつか使う」が「ずっと放置」になるリスクがある
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3,000万円特別控除の適用期限を逃す可能性がある
向いているケース
・3〜5年以内に子どもや孫が住む具体的な計画がある
・近くに住む家族が定期的に管理できる
親が施設に入ったら最初にやること5つ
親が施設へ入居した直後は、慌てて実家を売却する必要はありません。しかし、何もせず時間だけが過ぎると、将来の選択肢が狭まる可能性があります。後悔しないためにも、まずは現状を整理し、家族で判断するための準備を進めることが大切です。
親が自宅へ戻る可能性を確認
まず主治医や施設のケアマネージャーに「今後、自宅に戻ることは現実的に可能か」を率直に確認しましょう。医療・介護の専門家の見立てをもとに判断することで、感情論になりにくくなります。「可能性がゼロではない」という場合でも、「いつまでに判断するか」という期限を決めておくことが重要です。
名義や相続状況を確認
法務局またはオンラインで登記事項証明書を取得し、不動産の名義人を確認します。親名義のままであれば、売却には親本人の同意・署名が必要です。もし親が認知症を発症して判断能力を失うと、通常の売却手続きができなくなります(後述)。早期の確認と対策が不可欠です。
家族で今後の方針を話し合う
兄弟姉妹全員を含めた家族会議を開き、「売る・残す・貸す」の方針を話し合います。この際、感情論にならないよう「年間維持費の試算」「不動産査定額」「10年間の維持コスト合計」という数字を共有したうえで話すのが効果的です。話し合いの内容はメモや議事録に残しておきましょう。
家の維持費を正確に把握
固定資産税の納税通知書を確認し、火災保険料・管理費・清掃費などを合算して年間の実際の維持コストを算出します。「施設の月額費用+実家の維持費」を合計すると、家計への負担の全体像が見えてきます。この数字を持って家族で話し合うと、判断がしやすくなります。
不動産査定を受けて価値を確認
「古い家だから売れないだろう」と思い込まず、必ず複数社(最低3社)に無料査定を依頼して市場価値を把握しましょう。査定を受けたからといって必ず売却する必要はありません。「いくらで売れるか」を知ることが、判断の出発点です。
知っておくべき「2つのタイムリミット」
親が施設へ入居した後の実家問題では、「まだ大丈夫」と考えているうちに重要な期限を過ぎてしまうことがあります。特に、税制上の優遇措置と親の判断能力に関するタイムリミットは、後から取り戻すことができません。実家の選択肢を狭めないためにも、早めに確認しておきましょう。
① 3,000万円特別控除は「住まなくなってから3年以内」
親の実家を売却する際、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「居住用財産の3,000万円特別控除」が使える可能性があります。
ただし、住まなくなってから(施設入居から)3年を経過した年の12月31日までに売却しないと、この控除が使えなくなります。大きな節税になる可能性があるため、施設入居後は早めに不動産会社に相談することをお勧めします。
② 親の判断能力があるうちに動く
親名義の不動産を売却するには、原則として親本人の意思確認と署名が必要です。
しかし施設入居をきっかけに認知症が進行するケースは少なくありません。判断能力が失われると、家庭裁判所が選任する「成年後見人」を立てなければ売却ができなくなり、手続きが複雑・高コスト・長期化します。
このリスクへの対策として、以下の2つの制度を早めに検討しましょう。
- 家族信託:親が元気なうちに、実家の管理・処分権限を子どもに託す契約。認知症になった後も子どもの判断でスムーズに売却・運用が可能になる。
- 任意後見契約:将来、判断能力が低下したときに備え、あらかじめ信頼できる人を後見人として決めておく制度。公正証書で作成する必要がある。
実際に解決したケース
親が施設へ入居した後の実家の対応は、家庭ごとに異なります。実際には、親の健康状態や家族の住まい、将来の活用予定などを踏まえて、それぞれに合った選択をしています。ここでは、実家を売却・管理継続・住み継ぐことを選んだ代表的なケースを紹介します。
施設入居後に売却した
売却
要介護3の認定を受けた母親(75歳)が介護施設へ入居したAさん(50代)のケース。「母が戻るかもしれない」と半年間様子を見ましたが、施設のケアマネージャーから「自宅への復帰は難しい」という見立てを受け、家族会議で売却を決断。3社に査定を依頼して仲介売却を選択し、施設入居から約1年以内に売却完了。売却代金を母親の施設費用に充て、維持費負担からも解放されました。なお、住まなくなってから3年以内の売却だったため、3,000万円特別控除の適用も確認できました。
一時的に管理継続した
管理継続
父親(70代)が骨折を機に短期入所したBさん(40代)のケース。「回復すれば自宅に戻る予定」だったため、入居直後は売却せず管理継続を選択。半年後に父親の状態が安定して自宅復帰が実現し、実家をそのまま活かすことができました。「戻る可能性がある間は残す、1年後に再判断する」という期限を家族で決めていたことが迷走を防ぐポイントでした。
子ども世代が住むことになった
相続
父親が施設に入ったCさん(40代・実家の近くに在住)のケース。長年賃貸暮らしだったCさんが「この機会に実家をリフォームして住みたい」と申し出ました。リフォーム費用(約300万円)をかけて水回りや断熱を改修し、家族が住み継ぐことを選択。維持費の節約と家の有効活用を両立できました。
このケースならどうする?
親が施設へ入居した後の実家は、家族の状況によって最適な選択肢が異なります。大切なのは、「何となく残す」「何となく売る」ではなく、将来の活用予定や管理の負担、建物の状態などを踏まえて判断することです。次の表を参考に、ご自身の状況に近いケースを確認してみましょう。
| 状況 | おすすめの対応 |
|---|---|
| 親が自宅へ戻る可能性がある | まず管理継続し、期限を決めて再判断 |
| 戻る予定がない | 早めに査定を受けて売却を検討 |
| 遠方で管理できない | 売却優先(管理コスト・リスクが大きい) |
| 子どもが住む予定がある | リフォームして保有(費用対効果を試算) |
| 空き家期間が長くなりそう | 売却または賃貸活用を検討 |
| 築年数が古く老朽化が著しい | 売却または解体後の土地売却を検討 |
よくある質問
親が施設に入ったらすぐ売却してもいいですか?
法律的には親が判断能力を持っていれば売却は可能です。ただし、親の意思を確認・尊重することが最優先です。「売ることになっても、自分の意思で決めた」という感覚が親にとっての尊厳につながります。施設入居直後は親自身も環境変化に戸惑っていることが多いため、少し落ち着いてから話し合うのが現実的です。一方で「3,000万円特別控除の期限(住まなくなってから3年以内)」があるため、判断を長く先送りにしすぎることもリスクになります。
親が認知症の場合は売却できますか?
親が「意思能力(判断能力)」を失っている場合、通常の方法では売却できません。この場合は家庭裁判所が選任する「法定後見人」を立てることで売却手続きが可能になりますが、申請から選任まで数ヶ月かかり、費用も発生します。また後見人が就くと、親の財産管理に制約が生じます。だからこそ、判断能力があるうちに「家族信託」や「任意後見契約」を検討することが重要です。
実家を残すと年間いくらかかりますか?
30坪程度の一戸建てを想定した場合の年間コストの目安は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 年間の目安 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 5〜20万円 |
| 火災保険料 | 3〜8万円 |
| 管理・清掃・草刈り | 3〜10万円 |
| 突発的な修繕費 | 数万〜数十万円(随時) |
| 合計目安 | 年間20〜40万円以上 |
施設の月額費用(目安:10〜30万円)と合算すると、家計への負担の大きさがより明確になります。
家財整理はいつ行うべきですか?
実家の活用方針(売る・残す・貸す)が決まってから行うのが原則です。方針が決まる前に片付けを始めると、「処分してはいけないものを捨ててしまった」「相続トラブルになった」というケースが起きやすくなります。ただし、親が施設に移る際に必要な荷物の選別と貴重品の保管は早めに行いましょう。権利証・通帳・印鑑・保険証券などは紛失リスクがあるため、家族が集まったタイミングで確認・保管しておくことをお勧めします。
まとめ:施設入居後は「早めの相談」が後悔を防ぐ
親が施設に入ったタイミングは、実家の今後を考えるうえで最も重要なタイミングです。「落ち着いてから考えよう」と先送りにしているうちに、建物の劣化・維持費の累積・税制上の特例期限切れ・親の認知症進行といった問題が重なっていきます。
施設入居後にやるべきことの優先順位
- 親が戻る可能性をケアマネージャーに確認する
- 名義・相続状況を確認する
- 年間維持費を正確に算出する
- 家族で方針を話し合い、判断の期限を決める
- 不動産会社に無料査定を依頼して相場を把握する
「まだ決められない」という方も、まず査定だけ受けることが最初の一歩です。実家の価値を知ることで、「売る・残す・貸す」の判断が格段にしやすくなります。

